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東京高等裁判所 昭和24年(新を)335号 判決

被告人

小出幸司

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審に於ける訴訟費用は全部これを被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意書第一点及び補充控訴趣意書について

論旨は、被告人は原審に於て私選弁護人を附する準備の都合上第一回公判の延期が許されたに拘らずその後弁護人を選任せず第二回公判期日である昭和二十四年三月二十九日附で原裁判所に対する弁護士辞任届と題する書面を提出し弁護人の選任不要の旨を記載しておる。右の事実は被告人に弁護人を不要とする眞意であつたと認められないから、仮令弁護人不要の旨を記載した書面があつても弁護人なくして本件を開廷審理したのは違法である。且つ右被告人提出の書面はあらかじめ提出されたものと認められないからこの点に於ても原審訴訟手続は違法であるというにある。原審が第一回公判期日を変更したこと及び被告人が弁護士辞任届と題する書面を提出し弁護人を要しない旨を記載しておることは所論の通りであるが被告人が一旦弁護人を附し度い希望をもつても後に至り諸般の事情を考へ弁護人を不要と考えることはありうることで右被告人提出の書面によると被告人は「窃盜犯を犯しました事は想意(相違)御座居ません故犯した罪己れの責任誰も惡いのではありません一人で其の罪を償ふて明るい氣持で更生致し改心して光明を見出して進む覚悟で何人の力を借りず一人で一日も早く出所する事改心して赤子よりやり直す云云弁護人依賴請求を抛棄致し御届申上げ云云とある当時の心情を詳細述べてある処を見ると弁護人所論のようにその眞意でないとは認められない。また刑事訴訟法施行法第五條の所謂あらかじめいというのは、被告人に対する公判開廷前であれば足るものであると解せられる。而して被告人提出の右弁護人を不要とする書面の日附と第二回公判期日とは同一の日附であるから第二回公判はその開廷前に前掲書面の提出があつたので弁護人なくして開廷したものと認むるのが相当であるから原審訴訟手続には所論のような違法はない所論は孰れも理由ないものである。

以下省略

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